[[Parisi「統計的場の理論」を読む]] 第3章 The Ising Model 3-4 The correlation functions - ここからは、実際に平均場近似の中で相関関数を計算してみようという話ですよね。でも、平均場近似ではスピン間には相関がなく確率分布はfactorizeされている(系全体の確率分布が個々のスピンに対する確率分布の積で書ける)。相関がないことを仮定した確率分布を用いて相関を計算するというのは、、、? - なぜこんなことができるかというと、式(3.29)は平衡状態でのみ成り立つ式だからと書いてありますね。 - 確率分布が平衡状態からずれると、式(3.29)の相関関数(左辺)と応答関数(右辺)は等しくならない。 - 平衡状態の確率分布と近似した確率分布の差を&mimetex(\delta P);とすると、(3.30)のように相関関数の誤差は&mimetex(\varepsilon);、自由エネルギーの誤差は&mimetex(\varepsilon^2);のオーダーになると。つまり?自由エネルギーの方は平衡状態と近似した状態で置き換えができるけど、相関関数はそうはできないということなんでしょうか? - 平衡状態では自由エネルギーが最小だから一階微分は0。だから、誤差は&mimetex(\varepsilon^2);から始まるわけですね。 - これが、平均場近似の確率分布で相関関数が計算できる理由になるんでしたっけ...混乱してきました。 - ええと、線形応答の式は、平衡状態で成り立つ訳ですね。その時に使っていることは、2階微分の公式は正しいのだから、スピンの期待値を取ってるところだけですね。 - だけど、平衡状態ってなんなんだ?いま、この部屋の空気が全部このコップの 中にいたら、普通は平衡から外れてるっていうよね。 - ええ、その状態から十分時間が経てば平衡状態に近づいていくでしょうけど。 - でも、平衡状態の定義は(1.5)式だから、全部の空気の分子がコップの中にいる 確率は低いかもしれないけど、(1.5)式が与える確率でたまたま実現しちゃったのなら、 それは平衡状態なんじゃないかな。 科研費や何かでここんところ睡眠不足が続いてるんで、訳の分からないこと言ってるような気もするけど。 - 言いたいことは分かるような気がするんですが、ずれてきてないでしょうか、、、 いま問題になっているのは、本当の確率は&mimetex(exp(-\beta H));は スピンごとにファクトライズしてないでしょうが、平均場近似では確率が ここのスピンの関与する部分の積で近似する。そのとき、相関がないんだから、 (3.29)式はゼロのはず。だけど、パリージ先生は、自由エネルギーの 平衡状態からのズレは、相関関数のズレより小さいから、ノンゼロのものが 計算できておかしくないと言ってて、それがよく分からないといってるんですよ! - なんか分かってきたような、混沌としてきたような。ええと、平均場近似が どこで入ったかといえば、(3.9)ですよね。(3.31)は単に&mimetex(m);が小さいとして簡単にしただけですから。相関関数がゼロにならない、つまり2階微分がゼロに ならない理由を(3.9)で考えると、&mimetex(m_i); を&mimetex(h_k);で微分した 時にゼロにならないからですね。左辺の&mimetex(m_i);を決める右辺の中に &mimetex(m_k);が入ってますから。 - なるほど。&mimetex(m_i);と&mimetex(m_k);の分布はファクトライズされている はずなのに、&mimetex(h_k); が&mimetex(m_i); に影響を及ぼしている。 - そうか、少しずつ分かってきたような気がする。(3.8)式あたりでやったのは、平均場で確率をファクトライズしていいなら、 #mimetex(\langle H \rangle = \langle -J \sum S_i S_k \cdots \rangle = -J m_i m_k \cdots ) というように計算できて、エントロピーも計算でき、それから自由エネルギーも計算できる。でも自由エネルギーは最小を取らないといけないから、その条件を科せば、この&mimetex(m_i); たちは独立ではなくて、関係がついてしまう。それから「線形応答」の式、(3.29)式を使えば、相関関数 &mimetex(\langle S_i S_k \rangle);が計算できる。 でも、パリージ先生がここで(多分)気にしているのは、平均場近似を使ってしまえば、左辺はゼロのはずなのに、その関係はどうなっているんだろうということだと思うんだ。 - それが(3.30)式で、自由エネルギーは&mimetex(\epsilon^2);の誤差、相関は&mimetex(\epsilon);のオーダーの誤差だから矛盾無いというわけですか。まだ、よく分からない。 - うーん、完全に納得できた分けではないのだけど、先に行きましょうか。次の具体的な計算もパリージ先生らしく、本質だけ取りだして、説明無しにJが1になっていて、また後で戻ったりするから、すこし丁寧に見ておかないと式の変形が分からない。 - そうですね、ここだけでもう何週間も、うなってますものね。 - 微小な外場&mimetex(h_i);をかけたとき、&mimetex(m_i);もやはり小さいとして、&mimetex(m_i^2);のオーダーを無視すると、(3.9)式が(3.31)式のように書ける。この解は、行列の成分の形で書けて、(3.32)式が出てくる。次に、この(3.32)式をFourier変換を用いて解いていくんですねー。 -まず、 #mimetex( A_{kl}=\frac{\beta}{(2\pi)^D}\int_B d^D pG^0 (p)\exp [i(\vec{k}-\vec{l})\cdot \vec{p}]) とおく。こういった変換が出てくると私はいつも戸惑ってしまうのですが。 - 積分のBは第一Brillouiin zone中の積分という意味ですね。今は立方格子を考えているので #mimetex( \int_B d^D p = \prod_1^D \int_{-\pi}^{\pi} dp_\nu ) - 同じように考えると、 #mimetex( \delta_{il} =\frac{1}{(2\pi )^D}\int_B d^D p \exp [i(\vec{i}-\vec{l})\cdot \vec{p}] ) -&mimetex(J_{ik});は、&mimetex(i);と&mimetex(k);が隣同士の場合だけ値を持つので、 #mimetex( \sum_k J_{ik}=\sum_\nu^D (\delta_{k,i+\nu}+\delta_{k,i-\nu})) &mimetex( i+\nu ,i-\nu );は&mimetex(i);のひとつ隣。&mimetex(i);や&mimetex(k);は計算をする時にはベクトルなんですよね。&mimetex(\nu);もベクトルで、&mimetex( \vec{1}=(1,0,\cdots ,0), \vec{2}=(0,1, \cdots ,0), \cdots , \vec{D}=(0,0,\cdots ,1) ); となる。書き方が難しいです。 - さらにここでJ=1としている。 - 上の式を使って(3.32)を書き直すと、 #mimetex( \begin{eqnarray*}\frac{1}{\beta}A_{il}-\sum_\nu (A_{i+\nu ,l}+A_{i-\nu ,l}) &=& \delta_{il} \\ \frac{1}{(2\pi )^D}\int_B d^D p e^{ i(\vec{i}-\vec{l})\cdot \vec{p}} G^0 (p) \Bigl\{ 1-\beta\sum_\nu (\exp [i\vec{\nu}\cdot \vec{p} ] + \exp [-i\vec{\nu}\cdot \vec{p} ]) \Bigr\} &=& \frac{1}{(2\pi )^D}\int_B d^D p e^{i(\vec{i}-\vec{l})\cdot \vec{p}}\end{eqnarray*} ) だから #mimetex( G^0 (p)\bigl( 1-2\beta \sum_\nu \cos \vec{\nu}\cdot \vec{p} \bigr) = 1 ) つまり #mimetex( G^0 (p)\bigl( 1-2\beta \sum_\nu \cos p_\nu \bigr) = 1 ) これを解いて #mimetex( G^0 (p) = \bigl( 1-2\beta \sum_\nu \cos p_\nu \bigr)^{-1} ) - 運動量空間にいったら(フーリエ変換したら)、&mimetex(A=(1/\beta - J)^{-1});が求まったわけですね。 - Aってなんだったんだろう。&mimetex(A^{-1}=1/\beta -J); これは(3.31)式、 #mimetex((1/\beta - J)\vec{m} = \vec{h}) と書いたときの係数。これは(平均場近似での)自由エネルギー最小という式(3.9) つまり&mimetex(\partial\Phi/\partial m_i = 0); で、&mimetex(m);を小さいとしたもの。 結局、平均場近似で&mimetex(m);が小さいときは、&mimetex(\Phi = \vec{m}(A^{-1})\vec{m} - \vec{m}\cdot\vec{h}); となっていたはずなのかな。 - そうかもしれませんね。先に行きます。 &mimetex(m_i = \sum_k A_{ik} h_k);(3.32)ですから、これで&mimetex(m_i);が&mimetex(h);で表されて #mimetex(\langle S_i S_k \rangle = \frac{1}{\beta} \frac{\partial m_i}{\partial h_i} = \frac{1}{\beta}A_{ik} \mbox{(3.34)}) - &mimetex(\langle S_i S_k \rangle =m_i m_k);としてしまったら、以下にやるnon-trivialな結果は出てこないわけか。当たり前か。 - 内部エネルギーは #mimetex(u=\langle H \rangle /N = \frac{1}{2N} (-\sum_k J_{ki} S_i S_k - \sum h_i S_i) ) - ファクター2で割っているのは、&mimetex(J_{ki}); ときは、k,iの入れ替えも 足すけど、&mimetex(J\sum S_i S_k); のときは足してないから、 その調節でしょうね。 - さっきやったように #mimetex( \sum_k J_{ik}=\sum_\nu^D (\delta_{k,i+\nu}+\delta_{k,i-\nu})) として、そのフーリエ変換は #mimetex(2 \sum_{\nu=1}^{D}\cos p_\nu) つまり、&mimetex(J); も\mimetex(A); も運動量空間では対角化されているので、 つまり、&mimetex(J); も&mimetex(A); も運動量空間では対角化されているので、 &mimetex(A_{ik} J_{ki}); はそれぞれの対角要素をかけて足せばよくて #mimetex(u=-\frac{1}{(2\pi)^D}\int d^D p \frac{\sum \cos p_\nu}{1-2\beta \sum \cos p_\nu}) 内部エネルギーを温度で微分すれば比熱が求まるので、(3.36)のようになると。 - 次は相関関数 &mimetex(\langle S_i S_k \rangle = \frac{1}{\beta} A_{ik}); が相転移点の近傍でどう振る舞うかを調べるのですね。&mimetex(A); は式(3.33) から&mimetex(i-k);&にしかよらないから、&mimetex(i=0);の場合を調べれば十分。 #mimetex(A_{k,0} \prop k^{-D+2}) となるのですか。 - ええと、 #mimetex(A_{k,0}=\frac{\beta}{(2\pi)^D}\int d^D p G^0(p) exp[i\vec{k}\cdot\vec{p}]) &mimetex(G^0\(p)); は #mimetex(G=\frac{1}{1-2\beta\sum\cos p_\nu}) ですが、温度が&mimetex(1-2D\beta=0); になるときにポールが現れて、それが &mimetex(1/p^2);になるようにしたいので、 #mimetex(G=\frac{1}{\beta p^2 + (1-2D\beta) + O(p^4)}) とするわけですか。 ここもう少し丁寧に説明してほしいんですけど、忙しいんですか? - うん、今も教授会といよいよ来週に迫ってしまった大きな集会の準備の間に 書いている。 - まあ、来週に迫ってしまったと考えるか、あと1週間で自由になると考えるか、、、 - どうも。さて、これをどう計算するんだ、、、(約1時間) うーん、たぶんこうなんでしょうね。 #mimetex(\int d^D p \frac{1}{p^2} \exp(i\vec{k}\cdot\vec{p})) の計算が本質的。ベクトルはD次元。 極座標に移るとたしか &mimetex(d^D p = p^{D-1}dp d\Omega); (但し右辺の中の&mimetex(p); はpの絶対値)だから #mimetex(\int dp d\Omega p^{D-1} \frac{1}{p^2} \exp(i kp \cos\theta)) &mimetex(kp=x);とおけば #mimetex(\frac{1}{k^{D-2}} \int_{-k\pi}^{+k\pi} dx x^{D-3} \exp(ix\cos\theta) dx d\Omega) &mimetex(k); が非常に大きければ、積分は&mimetex(k); によらなくなるから、結局 #mimetex(A_{k,0}\prop \frac{1}{k^{D-2}}) - 次は(3.36)式に比熱の式があるので、この積分を計算して、今と同じように&mimetex(p); が小さいところが効くとして、D>4の時は定数、D=4の時はログ発散 (&mimetex(C=-\log(1-2D\beta);)、D<4の時は冪で発散というのを積分を計算することで示すわけですね。計算できるかなあ。 - &mimetex(p);が小さいときは #mimetex(C\prop \int d^D p \Big( \frac{\sum_\nu (1-1/2p_\nu~2)}{1-2\beta\sum_\nu (1-1/2p_\nu^2)} \Big)^2 ) #mimetex(\sim \int d\Omega dp p^{D-1}\Big( \frac{D}{1 - 2\beta D+\beta p\2}\Big)^2) &mimetex(p^2=t); とおけば #mimetex(\sim \int dt \frac{t^{D/2-1}}{(t+b)^2} ) ただし&mimetex(b=1-2\beta D); - ええと、これからどうするんでしょうね。岩波の公式集によれば #mimetex(\int dx \frac{x}{(x+b)^2}=\frac{b}{x+b}+\log(|x+b|)); - D=4のときはこれに相当して、&mimetex(t=0); のところから #mimetex(C\sim \log(1-2\beta D)) - 公式集には #mimetex(\int dx \frac{x^m}{(x+b)^2}=[\sum_{r=0}^{m-2} {_m} C_r \frac{(-b)^r (x+b)^{m-r-1}}{m-r-1})+m(-b)^{m-1}\log|x+b| - \frac{(-b)^m}{x+b}) ただし&mimetex(m\geq 2); - これが&mimetex(D\geq 5);に使えるとすれば、積分の&mimetex(t=0); 側は &mimetex(b\to 0); で消えるので、たぶんCは定数でしょうね。 -D<4 の場合に使えそうな公式はないですね。自分で作らないといけないのか、もっとうまい計算法があるのか、、、 - まだ終わりませんよ!さっき、&mimetex(A_{k,0}); を&mimetex(1-2D\beta=0);の相転移温度直上で計算して&mimetex(k^{-D+2}); という冪の振る舞いになることを示したわけですけど、&mimetex(1-2D\beta);がゼロじゃないときに、 #mimetex(\exp(-k/\xi)) と相関関数 &mimetex(\langle S_k S_0 \rangle); が指数的に減少して、その時の相関距離ξ を求めなければいけないみたいですよ。 数行進むのも大変ですね。 - うーん、深雪の中を行軍してるみたいですね。まあ、手を取り合って遭難しないように頑張りましょう。 - はぁ? - さっきは&mimetex(1-2D\beta);を落としてしまったけど、ちゃんとこれを入れれば #mimetex(A_{k,0} \prop \int dp d\Omega \frac{p^{D-1}}{p^2+b}\exp(ikp\cos\theta)) 立体角のうちθ部分は積分できて #mimetex(\exp(ikp) - \exp(-ikp)) 分母は #mimetex(\frac{1}{(p+i\sqrt{b})(p-i\sqrt{b})}) だから&mimetex(p);の積分を複素数に拡張して、上半分か下半分かに回せば - ちゃんと調べないんですか? - &mimetex(p=i\sqrt{b}); のポールを拾って #mimetex(\exp(ik(i\sqrt{b}))=\exp(-k\sqrt{b})=\exp(-k/\xi)) ただし #mimetex(\xi=\frac{1}{\sqrt{b}}=(1-2D\beta)^{-1/2}) - この計算が終わったところでのParisi先生のコメントは何かというと、 温度が高いときは比熱は&mimetex(T^{-2}); に比例する、確かに(3.36)式で &mimetex(\beta^2);という項がありますね。それから、4次元あるいはそれ以下の 次元では相転移点で比熱は発散する。 平均場近似は、次の項が小さくなければいけないわけですが、4次元あるいはそれ以下の次元では&mimetex(p=0); の近傍での揺らぎが大きいためにそうなってはいない。 - それって今の計算からわかりますかね? - うーん、どうだろう、、、 - あとは、相転移温度の下では、相転移点にあまり近くなければ平均場近似はよいと書いてありますね。相関距離ξ は相転移点でいつでも発散。